「売上が伸びてきたので、節税のために法人化したい」 「求人を出すために、個人事業から株式会社に組織変更したい」

建設業を営む親方や個人事業主の方にとって、「法人成り(法人化)」は事業拡大の大きな節目です。 社会的信用が増し、融資や採用面で有利になるなど、多くのメリットがあります。

しかし、建設業許可をお持ちの方には、一つだけ「絶対に避けて通れない大きな壁」がありました。 それは、「法人化すると、個人の許可は消滅し、一時的に許可がない状態(空白期間)ができる」という問題です。

「えっ、許可が切れると仕事ができないのでは?」 その通りです。これまでは、この空白期間がネックとなり、法人化を躊躇するケースが多々ありました。

しかし、令和2年(2020年)10月の建設業法改正により、この状況は劇的に変わりました。 新設された「事業承継認可(認可承継)」という制度を使えば、空白期間を作らず、スムーズに許可を法人へ引き継ぐことが可能になったのです。

本記事では、建設業専門の行政書士が、法人成りを検討中の方が知っておくべき「許可の引継ぎ(承継)」について、旧制度との違いや手続きの注意点を徹底解説します。

1. 昔は大変だった!法人成りの「空白期間」問題とは

まず、なぜこの「認可承継」が画期的なのかを知るために、少しだけ昔(令和2年9月以前)の話をさせてください。

かつて、建設業法では「許可は一身専属(その人だけのもの)」という考え方が厳格でした。 そのため、たとえ「中身は同じ社長、同じ事業」であっても、「個人事業主のAさん」と「株式会社A建設」は、法律上は「別人」と扱われていました。

旧制度での法人化スケジュール(地獄のブランク)

  1. 個人事業の廃業届を出す(=個人の許可を返納する)
  2. 新しい会社を設立する
  3. 新しい会社で、ゼロから「新規許可申請」を出す
  4. 審査期間(約1〜2ヶ月)を待つ
  5. ようやく会社の許可が下りる

この「4」の審査期間中、会社には許可がありません。 これを「空白期間(ブランク)」と呼びます。 この期間中は、500万円以上の請負契約(建築一式は1500万円以上)を結ぶことができず、実質的に大型案件をストップせざるを得ませんでした。

多くの建設業者が、このリスクを恐れて法人化を見送ったり、工事の少ない時期を狙ってバタバタと手続きをしたりしていたのです。

2. 令和2年の改正で登場!「事業承継認可」の衝撃

この不便さを解消するために作られたのが、「事業承継認可(譲渡及び譲受けの認可)」という制度です。

簡単に言えば、「事前に都道府県知事(または大臣)の『お墨付き(認可)』をもらっておけば、個人の許可をそのまま法人にスライドさせてもいいよ」というルールに変わりました。

新制度(認可承継)のメリット

この制度を利用することで、以下の3つの大きなメリットが得られます。

  1. 空白期間ゼロ!: 許可が途切れることなく、事業を継続できます。
  2. 許可番号が変わらない: 長年使ってきた愛着のある許可番号をそのまま引き継げます(※自治体や管轄変更の場合を除く)。
  3. 実績(実務経験)も継承: これが非常に重要です。個人の時の工事実績や経営年数がリセットされず、会社の歴史としてカウントされます。

特に3つ目の「実績の継承」は、公共工事への入札(経営事項審査)を考えている方にとっては死活問題です。 旧制度の「新規取り直し」では、会社としての実績は0年スタートでしたが、認可承継なら個人の実績が合算されるため、有利なランクでスタートできる可能性があります。

3. ここだけは絶対注意!「事前認可」という鉄の掟

「なるほど、今は自動的に引き継げるようになったんだ!」 と思われた方、ここで止まると非常に危険です。

この制度の最大の落とし穴は、「事前の認可」が必要だという点です。

「会社を作ってから」では手遅れになる

一般的な法人化の流れは、「まず司法書士にお願いして会社設立登記をして、その後に税務署や役所に届出をする」というものです。 しかし、建設業許可の承継を狙う場合、この順番ではアウトです。

【絶対に守るべき順番】

  1. 法人化の準備(定款作成など)
  2. 都道府県へ「承継認可申請」を行う
  3. 都道府県から「認可」が下りる
  4. 会社の設立登記を行う

もし、うっかり先に登記をして会社を作ってしまうと、「承継認可」は使えません。 その場合は、旧制度と同じく「新規許可申請」となり、恐ろしい空白期間が発生してしまいます。

「会社を作ってから相談に来られたお客様に、泣く泣く新規申請をご案内する」というのは、私たち行政書士にとって最も辛い瞬間の一つです。 そうならないためにも、「法人化を考えたら、登記をする前に必ず建設業専門の行政書士に相談」を徹底してください。

4. 認可を受けるための要件(ハードル)

では、申請さえすれば誰でも認可されるのでしょうか? 当然ながら、審査があります。基本的には「新規許可」と同等の厳しいチェックが行われます。

主なチェックポイントは以下の通りです。

① 人の要件(経営業務の管理責任者・専任技術者)

新しくできる法人に、許可要件を満たす「人」が常勤で在籍している必要があります。 通常は、個人事業主だった方がそのまま社長になり(経営業務の管理責任者)、そのまま技術担当(専任技術者)になるケースが多いでしょう。 しかし、もし社長以外の従業員を専任技術者にしていた場合、その社員も新しい会社に転籍(雇用契約の巻き直し)をする必要があります。

② お金の要件(財産的基礎)

一般建設業の場合、「自己資本が500万円以上」あることが求められます。 法人設立時の「資本金」を500万円以上にするのが最も確実でシンプルな方法です。 もし資本金を低く設定する場合(例:100万円など)は、個人事業時代の預金残高証明などで500万円以上の資金力を証明しなければなりません。 手続きのスムーズさを考えるなら、「資本金500万円以上での設立」を強くお勧めします。

③ 欠格要件

新会社の役員などが、過去に禁錮以上の刑を受けていないか、暴力団関係者ではないかなどがチェックされます。

5. 「経審(経営事項審査)」を受ける予定の方はさらに注意

将来的に公共工事の入札に参加したいと考えている場合、法人成りのタイミングはさらに戦略的に考える必要があります。

事業承継認可を使えば、個人のときの実績(完成工事高や経営年数)を法人に引き継ぐことができます。 しかし、経審の点数計算においては、「個人時代の決算書」と「法人設立後の決算書」の接続が非常に複雑になります。

  • 個人時代の減価償却資産をどう会社に移すか?
  • 退職金共済(建退共)の加入歴はどう引き継ぐか?

これらを正しく処理しないと、せっかく法人化しても経審の点数がガクンと下がってしまうリスクがあります。 税理士さんだけでなく、建設業の経審に詳しい行政書士を交えて、「どのタイミングで法人化するのが、経審の点数にとってベストか」をシミュレーションすることをお勧めします。

6. 手続きの複雑さと専門家の必要性

ここまでお読みいただいてお分かりの通り、「認可承継」は新規申請以上にスケジュール管理がシビアです。

  • 司法書士との連携: 会社の定款内容や設立日(登記申請日)の調整
  • 役所との事前相談: 各都道府県によって、審査にかかる期間やローカルルールが異なります。
  • 膨大な書類作成: 事業計画書や、個人から法人への資産譲渡に関する書類などが必要です。

これらを、日々の現場仕事を抱えながら社長お一人でこなすのは、現実的ではありません。 もし書類不備で認可が遅れれば、予定していた法人設立日を後ろ倒しにしなければならず、取引先や銀行との調整も狂ってしまいます。

7. まとめ:法人化の成功は「事前の相談」で決まる

個人事業主からの法人成りは、事業を次のステージへ進めるための素晴らしい決断です。 令和2年の法改正により、許可のリスクなく法人化できる環境は整いました。

しかし、その恩恵を受けるための条件はたった一つ。 「登記をする前に動くこと」です。

  • 空白期間を作らずに法人化したい
  • 今の許可番号を維持したい
  • 個人の実績を引き継いで、公共工事を狙いたい

このようにお考えの方は、「会社のハンコを作る前」に、当事務所へご相談ください。

当事務所では、建設業許可の承継手続きはもちろん、提携している司法書士や税理士とチームを組み、会社設立から許可の引継ぎ、その後の経審対策までをワンストップでサポートいたします。

「まだ迷っている」という段階でも構いません。 社長の事業拡大を、許可の面から全力でバックアップさせていただきます。 まずは一度、無料相談をご利用ください。