「建設業許可を取りたいが、施工管理技士などの国家資格を持っていない」 「学校も建築学科ではない。たたき上げで20年やってきた腕だけが頼りだ」
このようなご相談をいただく際、多くの社長様や親方様が「資格がないから、うちは許可が取れない」と諦めかけていらっしゃいます。
しかし、諦めるのはまだ早いです。 建設業許可には、資格がなくても「10年間の実務経験」を証明することで、専任技術者(専技)として認められるルートが存在します。
ただし、正直に申し上げます。 この「10年証明」は、建設業許可申請の中で最も難易度が高く、最も労力がかかる手続きです。 単に「10年働いていました」と口頭で言うだけでは、役所は絶対に認めてくれません。過去10年分の「証拠」を積み上げ、審査官を納得させる必要があるのです。
今回は、元公務員であり審査側の視点も持つ行政書士が、この難関「実務経験10年」の証明方法と、審査を突破するための「請求書・通帳」の整理術について、東京都の最新ルールに基づき徹底解説します。
目次
- 資格なしでも許可は取れる!「実務経験10年」の要件とは
- 審査官はここを見る!証明に必要な「3点セット」
- 最難関の作業…「請求書」と「通帳」の突合(消込)とは?
- 「金額が合わない!」振込手数料や合算入金はどう扱う?
- 東京都の特例ルール「3ヶ月スキップ」を活用せよ
- 自分でやるのは危険?「実務経験証明」をプロに任せるべき理由
- まとめ:その「10年」、無駄にしません。証明はプロにお任せを
1. 資格なしでも許可は取れる!「実務経験10年」の要件とは
建設業許可を取得するためには、営業所ごとに「専任技術者(専技)」を置く必要があります。通常は、1級・2級施工管理技士や建築士などの「国家資格者」がなるケースが一般的です。
しかし、資格がない場合でも、「許可を受けようとする業種について、10年以上の実務経験があること」を証明できれば、専任技術者になることができます。
「10年」とは「120ヶ月」のこと
ここで言う10年とは、単に「創業してから10年経った」という意味ではありません。 「実際にその工事を請け負っていた期間が、通算で120ヶ月分あること」を書類で証明しなければならないのです。
例えば、「内装仕上工事業」の許可を取りたい場合、過去に「内装工事」を請け負った実績が10年分必要です。途中で「電気工事」や「管工事」をやっていた期間があっても、それは内装工事の経験としてはカウントされません(原則)。
この「120ヶ月分の証拠」を揃える作業こそが、多くの建設業者様が挫折してしまう最大の壁なのです。
2. 審査官はここを見る!証明に必要な「3点セット」
では、具体的にどのような書類が必要なのでしょうか? 東京都の手引きに基づき、実務経験を証明するための「三種の神器」をご紹介します。
① 契約書・注文書・請求書のいずれか(写し)
まずは、「確かに工事を請け負った」という事実を示す書類です。 以下のいずれかを、1ヶ月につき1件分、過去10年分(つまり最低120件分)用意する必要があります。
- 工事請負契約書
- 注文書(および請書)
- 請求書
「契約書なんて交わしてないよ、口約束だよ」という場合でも、「請求書」は残っていることが多いはずです。実務上は、この「請求書」をメインの証拠資料として使うケースがほとんどです。
② 入金確認資料(通帳の写しなど)
ここが非常に重要です。 請求書を作っただけでは、「実績」とは認められません。あとから架空の請求書を作ることもできてしまうからです。 そのため、東京都では「その請求書の金額が、実際に口座に入金されていること」を確認します 。
具体的には、「銀行の通帳の原本(または写し)」を提示し、請求書の金額と入金履歴を照らし合わせる作業が必要になります。
③ 常勤性の確認資料(期間通年分)
「工事の実績」だけでなく、「その期間、その人が会社に在籍していたこと」も証明しなければなりません。 通常は、期間通年分(10年分)の「健康保険被保険者証の写し」や「厚生年金被保険者記録照会回答票」などで証明します 。
3. 最難関の作業…「請求書」と「通帳」の突合(消込)とは?
「実務経験10年」の申請において、お客様が最も頭を抱えるのが、この「請求書と通帳の突合(消込)」作業です。
審査の現場では、以下のような作業が行われます。
- 10年分の請求書(120枚以上)を時系列に並べる。
- それぞれの請求書に対応する「通帳の入金記録」を探す。
- 請求書の「ご請求金額」と、通帳の「振込金額」が一致しているか確認する。
この作業を、120ヶ月分、1つ1つ行います。 もし、「請求書はあるけど通帳が見当たらない(紛失した)」という月があれば、その月は経験期間として認められません。その分、さらに過去に遡って別の月の実績を探す必要があります。
「10年前の通帳なんて、どこにあるか分からない…」 「銀行が合併して、通帳の形式が変わっている…」
こうしたトラブルを一つひとつ解決し、パズルのピースを埋めるように120ヶ月分を揃えていく。これが行政書士の腕の見せ所です。
4. 「金額が合わない!」振込手数料や合算入金はどう扱う?
実務上、請求書の金額と通帳の入金金額がピタリと一致しないことはよくあります。 よくあるケースと、東京都における審査の取り扱い(Q&A)について解説します。
ケース①:振込手数料が引かれている
「請求額は110,000円だが、通帳への入金は109,120円だった(振込手数料880円が引かれている)」
このような場合、金額不一致でアウトになるのでしょうか? ご安心ください。大丈夫です。
東京都のQ&Aでは、「振込手数料分の差額等、請求額と入金額にずれがある場合は、分かりやすい説明があれば認める」とされています 。 審査の際は、電卓を叩いて「差額が振込手数料として妥当な金額か」を確認します。この説明ができれば、実績として認められます。
ケース②:複数の工事代金がまとめて入金されている
「A工事(5万円)とB工事(10万円)の請求書を出したが、通帳には合算で15万円が入金されている」
この場合も、「入金内訳書」などを作成し、どの請求書とどの請求書が合算されているかを説明できれば認められます 。 ただし、内訳が複雑になりすぎると審査が難航するため、できるだけ1対1で対応している明細を選ぶのがコツです。
ケース③:協力費などが相殺されている
元請業者によっては、安全協力会費や駐車場代などが天引き(相殺)されて入金されることがあります。 この場合も、元請からの「支払通知書」や「相殺の明細」があれば証明可能です。明細がない場合は、計算式を示して合理的な説明を行う必要があります。
5. 東京都の特例ルール「3ヶ月スキップ」を活用せよ
「120ヶ月分の請求書と通帳を全部コピーするなんて、それだけでコピー代が馬鹿にならない…」
そう思われた方に朗報です。東京都には、書類の量を減らせる「経営経験・実務経験期間確認表」という運用ルールがあります。
これは、「請求書等の間隔が3ヶ月未満であれば、その間の月の請求書等の提出を省略できる」というものです 。
例えば:
- 4月分の請求書(+通帳)がある
- 7月分の請求書(+通帳)がある
この場合、4月と7月の間隔は3ヶ月以内なので、間の「5月分」「6月分」の請求書は提出しなくても、在籍期間として繋がっているとみなされます(※あくまで期間の確認であり、空白期間に工事をしていなくても良いという意味ではありませんが、提出書類は減らせます)。
このルールをうまく活用すれば、提出する請求書・通帳のコピーの量を大幅に(最大で3分の1程度に)減らすことができます。 この「確認表」の作成は非常にテクニカルですが、当事務所にご依頼いただければ、最適な組み合わせで書類を作成いたします。
6. 自分でやるのは危険?「実務経験証明」をプロに任せるべき理由
ここまでお読みいただいて、「自分でもなんとかできそうだ」と思われましたか? それとも、「これは大変そうだ…」と思われましたか?
正直に申し上げますと、実務経験10年での新規申請を、ご自身(自社)だけで行うのは極めてリスクが高いです。
リスク①:業種判断のミス
「自分はずっと内装工事をやっていたつもりだったが、請求書の内訳を見たら『家具設置』や『電気配線』が混ざっていた」 このように、ご自身が思っている業種と、建設業法上の業種区分が異なるケースが多々あります。10年分の資料を集めた後に「これは内装工事とは認められません」と窓口で言われてしまったら、その労力はすべて水の泡です。
リスク②:膨大な時間コスト
10年分の書類をひっくり返し、通帳と突き合わせ、コピーを取り、一覧表を作る。この作業には、慣れている私たちでも数日〜数週間かかります。 社長様や事務員様が通常の業務の合間に行えば、数ヶ月かかっても終わらないでしょう。その間、本業がおろそかになってしまっては本末転倒です。
リスク③:元公務員の視点
当事務所の代表は、元公務員として許認可審査に携わった経験があります。 「審査官がどこを疑うか」「どういう説明なら納得するか」という”役所の理屈”を熟知しています。 例えば、通帳の金額が合わない場合でも、「どのような補足資料を作れば審査に通るか」を的確に判断し、諦めずに許可への道筋を作ります。
7. まとめ:その「10年」、無駄にしません。証明はプロにお任せを
国家資格がなくても、あなたが現場で積み重ねてきた「10年」は、建設業許可を取得するための立派な財産です。 書類がない、通帳が見つからない、金額が合わない…そうした理由で許可を諦める前に、ぜひ一度ご相談ください。
おくだいら行政書士事務所は、建設業許可専門の事務所として、多摩地域(多摩市、日野市、八王子市、立川市、府中市ほか)の建設業者様を全力でサポートしています。