「健康保険証が廃止されると聞きました。建設業許可の申請で『常勤の証明』はどうすればいいんですか?」

最近、建設業者様からこのようなお問い合わせが急増しています。 これまでは、経営業務の管理責任者(経管)や専任技術者(専技)が会社に常勤していることを証明するために、「健康保険証の写し」を提出するのが鉄則でした。

しかし、令和6年(2024年)12月2日をもって、従来の紙やプラスチックの健康保険証の新規発行は停止されました。今後は「マイナ保険証(マイナンバーカード)」を基本とする運用に切り替わります。

ここで大きな問題が発生します。 「マイナ保険証の券面には、会社名が書いていない」のです。

会社名が書いていないカードで、どうやって「この会社に常勤していること」を証明すればいいのでしょうか? 実は、東京都の建設業許可実務においては、この変更に伴い確認書類のルールが大きく変わっています。

今回は、元公務員で審査側の視点を持つ行政書士が、健康保険証廃止後の「常勤性確認」の最新ルールと、現場で準備すべき代替書類について徹底解説します。


目次

  1. なぜ「健康保険証」が重要だったのか?(建設業許可の常勤性)
  2. 令和6年12月2日以降、何が変わった?(マイナ保険証への移行)
  3. 【重要】東京都の最新ルール!「マイナ保険証」だけではNGな理由
  4. これを用意すればOK!新しい「常勤確認書類」リスト
  5. まだ手元にある「従来の保険証」は使える?(経過措置)
  6. 個人事業主の場合の注意点
  7. まとめ:書類が複雑化!不安な方は専門家へ

1. なぜ「健康保険証」が重要だったのか?(建設業許可の常勤性)

建設業許可を取得するためには、以下の2つの重要なポジションの人材を配置しなければなりません。

・経営業務の管理責任者(経管):経営のプロ ・専任技術者(専技):技術のプロ

この2人には、「営業所に常勤していること」という絶対条件があります。 「名前だけの役員(名義貸し)」や「他の会社で働いている人」「現場に出っ放しで営業所にいない人」では認められないのです。

これまで、この「常勤性」を証明する最強のアイテムが「健康保険証(健康保険被保険者証)」でした。

従来の保険証には、以下の情報が記載されていました。 ・氏名 ・生年月日 ・事業所名称(会社名) ・資格取得年月日(入社日)

これ一枚あれば、「この人は、〇〇建設株式会社に、〇年〇月〇日から社員として在籍している(社会保険に入っている=常勤である)」ということが一発で証明できたのです。 審査する側(東京都)にとっても、申請する側にとっても、非常に便利な書類でした。

2. 令和6年12月2日以降、何が変わった?(マイナ保険証への移行)

国の方針により、令和6年12月2日以降、従来の健康保険証の新規発行・再発行は停止されました。今後は、マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」が基本となります。

これに伴い、建設業許可の審査現場でも「従来の保険証の写し」が提出できないケースが出てきました。 ・新しく入社した役員や社員が、従来の保険証を持っていない。 ・紛失して再発行しようとしたら、マイナ保険証の利用を案内された。

そこで、東京都(都市整備局 市街地建築部 建設業課)は、令和6年12月20日付で「健康保険被保険者証に代わる常勤性の確認書類について」という新しい運用ルールを発表しました。

これから許可申請や変更届(役員の就任、専技の交代など)を行う場合は、この新ルールに従って書類を準備する必要があります。

3. 【重要】東京都の最新ルール!「マイナ保険証」だけではNGな理由

ここからが本題です。 「じゃあ、マイナンバーカードのコピーを出せばいいんだね?」 と思われた方。半分正解で、半分間違いです。

マイナンバーカードの表面(顔写真がある面)には、氏名や住所は書いてありますが、「勤務先(会社名)」は書いてありません。 これでは、その人が「どこの会社の人か」が分からず、建設業許可の審査で最も重要な「自社への常勤性」が証明できないのです。

そのため、東京都の新しい審査基準では、法人の場合、以下のような取り扱いになっています。

パターンA:従来の保険証(有効期限内)がある場合

→ これまで通り、そのコピーでOK。

パターンB:マイナ保険証などを利用する場合

「マイナ保険証の表面の写し」 + 「会社に在籍していることを証明する別の書類」 の2点セットが必要。

つまり、マイナ保険証に移行したことで、「提出すべき書類が1枚増えた」と考えるのが正解です。 「デジタル化で便利になるはずが、審査書類は増えてしまった」という、実務上のねじれ現象が起きているのが現状です。

4. これを用意すればOK!新しい「常勤確認書類」リスト

では、具体的にどのような書類を用意すればよいのでしょうか? 東京都が公表している資料(資料④)に基づき、法人の申請において認められる書類の組み合わせを整理しました。

【必須書類(本人確認用)】

以下のいずれか1つを用意します。

  1. マイナンバーカード(表面のみ)の写し
  2. 資格確認書の写し (マイナ保険証を持っていない人に発行される書類)
  3. 有効期限内の従来の健康保険証の写し (※記号・番号・枝番等のマスキング処理必須)

【追加書類(所属確認用)】

上記の「1」または「2」を提出する場合、さらに以下のいずれか1つを追加で提出する必要があります。

  1. 健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書の写し (毎年、年金事務所から会社に送られてくる「定時決定」の通知書です。会社名と個人名が一覧になっています)
  2. 資格取得確認および標準報酬決定通知書の写し (新入社員などの場合、加入時に発行される通知書です)
  3. 住民税特別徴収税額通知書(徴収義務者用)の写し (毎年5月頃に区市町村から届く、住民税の天引き額の通知書です)
  4. 直近決算の法人用確定申告書の写し (表紙、役員報酬明細、受信通知メール詳細など。役員の場合に有効です)
  5. 厚生年金保険の被保険者記録照会回答票の写し

元公務員からのワンポイントアドバイス

最もスムーズなのは、「標準報酬決定通知書(定時決定)」です。 これは毎年送られてくる公的な書類であり、会社名と全従業員の氏名、標準報酬月額が一覧になっているため、審査官も一目で「この会社に在籍しており、常勤性のある給与をもらっている」と判断できます。 建設業許可の申請を予定している場合は、この通知書を絶対に捨てずに保管しておいてください。

もし手元にない場合は、「ねんきんネット」の画面プリントアウトなどで代用できるケースもありますが、イレギュラーな対応となるため、事前に我々行政書士にご相談いただくのが確実です。

5. まだ手元にある「従来の保険証」は使える?(経過措置)

「手元にまだ青色(またはオレンジ色)の従来の保険証があるんだけど、これはもう使えないの?」

ご安心ください。使えます。 経過措置として、令和6年12月2日時点で発行済みの健康保険証は、最大で1年間(令和7年12月1日まで)は有効とされています(※ただし、保険証に記載されている有効期限がそれより前に来る場合は、その期限まで)。

したがって、有効期限内の従来の保険証をお持ちの方は、今まで通りそのコピー(記号・番号等のマスキング処理必須)を提出するだけで、常勤性の証明として認められます。 追加の書類は不要です。

ただし、紛失してしまった場合や、住所変更等で再発行が必要になった場合は、従来の保険証は発行されませんので、新ルール(マイナ保険証+追加書類)での対応が必要になります。

6. 個人事業主の場合の注意点

ここまでは「法人」の話でしたが、「個人事業主」の場合は少し事情が異なります。 個人事業主(一人親方など)は、そもそも社会保険(厚生年金・健康保険)への加入が義務付けられていないケースが多いため、「国民健康保険」に加入していることが一般的です。

国民健康保険証には、もともと「屋号(事業所名)」は記載されていません。 そのため、個人事業主が常勤性を証明する場合は、以下の組み合わせが必要になります。

  1. 健康保険証等の写し (マイナ保険証の表面、資格確認書、または従来の国保保険証)
  2. 直近決算の個人確定申告書の写し (第一表、第二表、受信通知メール詳細)

個人事業主の場合は、確定申告書によって「事業を行っている実態」を確認します。 これは従来からの運用と大きく変わりませんが、マイナ保険証を使う場合は、カード表面のコピーを忘れずに添付してください。

なお、個人事業主でも「従業員を5人以上雇用している」場合などは社会保険の強制適用となりますので、その場合は法人と同様に「標準報酬決定通知書」などが証明書類として使えるようになります。

7. まとめ:書類が複雑化!不安な方は専門家へ

今回の健康保険証廃止に伴う変更点は、一言で言えば「確認書類の複雑化」です。

これまでは「保険証のコピー1枚」で済んでいたものが、これからは「マイナ保険証のコピー」に加えて「標準報酬決定通知書」や「住民税の通知書」など、普段あまり意識していない書類を引っ張り出してくる必要があります。

「標準報酬決定通知書ってどれだっけ?」 「役員報酬明細が見当たらない…」 「新入社員だから通知書がまだ届いていない場合は?」

現場ではこのような混乱が予想されます。 もし書類に不備があれば、東京都庁の窓口まで行ったのに「書類不足で受理できません」と突き返されてしまうことになりかねません。

「自分の会社の場合、どの書類を揃えればいいのか?」 「手元にある書類で審査に通るのか?」

ご不安な方は、ぜひおくだいら行政書士事務所にご相談ください。

当事務所の代表は、元公務員として許認可審査を行っていた経験があります。 「役所が何をチェックしたいのか」「どの書類なら代用として認められるか」という審査のツボを熟知しています。

お客様の会社の状況(法人か個人か、社会保険の加入状況、手元にある書類)に合わせて、最短・確実な申請プランをご提案いたします。 面倒な書類集めやコピー、役所との事前協議もすべて丸投げでOKです。

多摩地域(多摩市、日野市、八王子市、立川市、府中市ほか)の建設業許可申請は、地域密着・実績豊富なおくだいら行政書士事務所にお任せください。