「建設業許可も電子申請ができるようになったと聞きました。もう都庁に行かなくてもいいんですよね?」

最近、このようなご質問をいただく機会が非常に増えました。 確かに、デジタル化(DX)の流れに伴い、東京都を含む多くの自治体で「建設業許可・経営事項審査電子申請システム(JCIP:ジェイシップ)」の運用が始まっています。

「24時間いつでも申請できる」「移動時間がゼロになる」といったメリットは確かに魅力的です。 しかし、元公務員として審査する側にいた経験、そして現在行政書士として申請する側の経験から申し上げますと、「すべてのケースで電子申請が楽とは限らない」というのが正直なところです。

今回は、東京都における建設業許可の電子申請(JCIP)について、そのメリット・デメリットと、「電子でやるべきケース」と「あえて窓口に行くべきケース」の使い分けについて、プロの視点で徹底解説します。


目次

  1. 東京都も推奨!建設業許可の電子申請(JCIP)とは?
  2. 電子申請の3大メリット~都庁に行かなくていい解放感~
  3. ここに注意!電子申請の「意外な落とし穴」と「できない手続き」
  4. 元公務員が教える「電子」と「窓口」の賢い使い分け戦略
  5. まとめ:デジタルの恩恵を受けつつ、確実な許可取得を

1. 東京都も推奨!建設業許可の電子申請(JCIP)とは?

建設業許可の電子申請システム(JCIP)は、国土交通省が運営するシステムで、自宅やオフィスのパソコンから許可申請や届出ができる仕組みです。東京都でもこのシステムを通じた申請受付を行っています。

これまで、建設業許可の申請といえば、分厚い書類の束(正本・副本)を抱えて、新宿の都庁(第二本庁舎)まで足を運ぶのが当たり前でした。 しかし、このシステムを使えば、インターネット経由で書類データ(PDF等)を送信し、審査手数料もネットバンキング(Pay-easy)で納付することができます。

東京都も「建設業課窓口の混雑緩和」や「ペーパーレス化」の観点から、電子申請の利用を推奨しています。

2. 電子申請の3大メリット~都庁に行かなくていい解放感~

まずは、電子申請を利用するメリットを整理しましょう。経営者様や事務担当者様にとって、以下の3点は非常に大きな恩恵です。

① 移動時間と待ち時間の削減

最大のメリットはこれに尽きます。 東京都の建設業課窓口は、時期や曜日によっては非常に混雑します。受付番号を発券してから審査が始まるまで、1時間以上待つことも珍しくありません。 電子申請なら、オフィスにいながら申請が完了するため、新宿までの往復移動時間と、窓口での待ち時間をすべてカットできます。

② 24時間いつでも申請可能

窓口の受付時間は「平日 午前9時~午後4時(申請)」と決まっていますが、電子申請システムなら土日祝日や深夜でもデータの送信が可能です。 (※ただし、都庁側の審査は開庁時間内に行われます) 日中は現場に出ていて役所に行けない社長様にとっては、非常にありがたい仕組みです。

③ ペーパーレス化と修正の効率化

紙の申請では、正本1部・副本1部(場合によってはそれ以上)を用意し、膨大な量の紙を印刷・製本する必要があります。 電子申請なら、基本的にPDFデータのアップロードで済みます。また、補正(修正)指示があった場合も、システム上で修正データを再送するだけで済むケースが多く、わざわざ訂正印を押しに都庁へ行く必要がありません。

3. ここに注意!電子申請の「意外な落とし穴」と「できない手続き」

「それなら全部電子申請にすればいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、そう簡単にはいかない事情があります。 システム上の制約や、審査の実情により、電子申請が適さない、あるいは利用できないケースがあるのです。

① 「GビズID」の取得が必須

電子申請システム(JCIP)を利用するためには、デジタル庁が発行する「GビズID(プライムまたはメンバー)」のアカウントを事前に取得する必要があります。 このID取得には、印鑑証明書の郵送などが必要で、発行までに数週間かかることもあります。「来週許可期限が切れるから急いで電子申請したい!」と思っても、IDがなければログインすらできません。

② 電子申請「対象外」の手続きがある

これが最も注意すべき点です。東京都では、すべての手続きが電子申請できるわけではありません。 特に重要なのが「事業承継(譲渡・合併・分割・相続)の認可申請」です。これらは現在、電子申請システムには対応しておらず、窓口での申請が必要です。

また、機械器具設置工事など、工事内容の確認に詳細な図面やカタログが必要となる業種の場合、データ容量や説明の複雑さから、電子申請では受付できず、窓口対応となるケースもあります。

③ 「実務経験」の証明が複雑な場合

許可要件の中で最も審査が厳しいのが「専任技術者の実務経験証明」です。 資格証(施工管理技士など)があれば画像添付で済みますが、資格がなく「10年間の実務経験」を証明する場合、過去10年分の契約書、注文書、請求書、通帳の原本などを提示する必要があります。

これらをすべてスキャンしてPDF化するのは膨大な手間がかかります。 さらに、東京都のQ&Aでも示されている通り、「5年を超える経営経験・実務経験を請求書等により証明する場合」や「常勤役員等の経験を、自社の経験以外(他社での経験など)で新規に証明する場合」などは、資料が膨大かつ複雑になるため、電子申請での受付が制限される(窓口に来るよう指示される)場合があります。

電子で申請したのに、「資料が細かすぎて画面では確認できないから、結局、原本を持って窓口に来てください」と言われてしまっては、電子申請の意味がありません。

4. 元公務員が教える「電子」と「窓口」の賢い使い分け戦略

以上のメリット・デメリットを踏まえ、当事務所ではお客様の状況に合わせて、以下のような使い分けを推奨しています。

【電子申請】をおすすめするケース

  • 更新申請:すでに許可を持っていて、内容に大きな変更がない場合。
  • 決算変更届(決算報告):毎年のルーティン業務。財務諸表などの数字入力がメインのため、電子申請と相性が抜群です。
  • 単純な変更届:本店所在地の変更や、資本金の変更など。
  • 国家資格者での新規申請:実務経験の証明が不要(資格証のアップロードのみ)な場合。

【窓口申請(紙)】をおすすめするケース

  • 「実務経験」での新規・業種追加申請:過去の請求書や通帳の原本提示が必要な場合。審査官と対面で「この工事は実務経験に含まれるか?」を直接交渉した方が、結果的に早くて確実です。
  • 事業承継(M&A、親子間継承):制度上、電子申請が使えません。また、スキームが複雑なため、事前の対面相談が必須です。
  • お急ぎの案件:電子申請は、データ送信から審査開始までにタイムラグが発生することがあります。窓口であれば、その場で審査・補正・受付完了まで持ち込めるため、期日が迫っている場合は窓口が確実です。

5. まとめ:デジタルの恩恵を受けつつ、確実な許可取得を

建設業許可の電子申請は、うまく使えば非常に便利なツールです。 特に、毎年の「決算変更届」や、5年に一度の「更新申請」においては、移動時間やコストを大幅に削減できるため、積極的な活用をおすすめします。

一方で、新規許可取得や、複雑な実務経験の証明が必要なケースでは、あえてアナログな「窓口申請」を選び、審査官と直接やり取りをする方が、許可への近道となることもあります。

おくだいら行政書士事務所は、「電子申請」と「窓口申請」の両方に精通しています。

「うちは電子申請でできるの?」 「パソコン操作が苦手だから、電子申請の代理も頼みたい」 「複雑な案件だから、先生に直接役所と交渉してほしい」

どのようなご要望にも、元公務員の経験とノウハウでお応えします。 多摩地域(多摩市、日野市、八王子市、立川市、府中市ほか)の建設業者様で、申請方法にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。 お客様にとって「最も負担が少なく、かつ確実に許可が下りる方法」をご提案いたします。