「特定建設業許可が必要な金額が変わったって本当?」 「うちは一般許可のままで大丈夫なのか、それとも特定を取るべきなのか…」

建設業を営む経営者様や担当者様から、最近このようなご相談を多くいただきます。 実は、令和7年(2025年)2月1日に施行された建設業法施行令の改正により、特定建設業許可が必要となる下請契約金額の下限が引き上げられました。

いわゆる「4,500万円の壁」が「5,000万円の壁」に変わったのです。

この改正は、昨今の資材高騰や労務費の上昇を反映したものであり、多くの建設業者様にとって許可区分(一般か特定か)を見直す重要なタイミングとなります。

今回は、元公務員で建設会社役員の経験も持つ行政書士が、この「令和7年改正」のポイントと、実務への影響、そして「特定建設業許可」を取得するためのハードルについて、どこよりも分かりやすく解説します。


目次

  1. 令和7年2月1日施行!建設業許可の金額要件はどう変わった?
  2. なぜ今?金額引き上げの背景にある「建設業界のリアル」
  3. おさらい:「一般建設業」と「特定建設業」の違いとは?
  4. ここが重要!「5,000万円(8,000万円)」判定の注意点
  5. 同時に改正!監理技術者の配置要件も見逃すな
  6. 「特定建設業」を取るべきか?3つのハードルをチェック
  7. まとめ:許可区分の見直しは専門家にご相談を

1. 令和7年2月1日施行!建設業許可の金額要件はどう変わった?

令和6年12月に閣議決定され、令和7年2月1日から施行された改正政令により、特定建設業許可が必要となる下請代金の額が以下の通り変更されました

【特定建設業許可が必要になる下請代金の総額】

【建築一式工事以外(土木、電気、内装など)】

  • 改正前:下請代金の合計が「4,500万円」以上
  • 改正後:下請代金の合計が「5,000万円」以上

【建築一式工事(ビル建設、大規模増改築など)】

  • 改正前:下請代金の合計が「7,000万円」以上
  • 改正後:下請代金の合計が「8,000万円」以上

これまでは、元請として工事を受注し、下請業者に出す金額の合計が「4,500万円(建築一式は7,000万円)」以上になる場合に「特定建設業許可」が必要でした。

しかし、今回の改正でこのボーダーラインが引き上げられ、「5,000万円(建築一式は8,000万円)」未満であれば、一般建設業許可のままでも施工が可能となりました

つまり、「一般建設業許可で請け負える範囲が少し広がった」と言えます。

2. なぜ今?金額引き上げの背景にある「建設業界のリアル」

なぜ、このタイミングで金額要件が見直されたのでしょうか? 理由はシンプルで、「建設工事費の著しい上昇」です。

ここ数年、資材価格の高騰や、建設労働者の賃上げ(労務費の上昇)により、工事原価は跳ね上がっています。 以前なら4,000万円で収まっていた工事が、内容は同じでも、物価高の影響で4,500万円を超えてしまうケースが増えてきました。

もし基準が変わらなければ、「工事の規模自体は変わっていないのに、物価が上がったせいで、急に特定許可が必要になる」という事態が頻発してしまいます。特定許可は取得難易度が高いため、これでは多くの中小建設業者が元請としての受注を諦めざるを得なくなります。

今回の改正は、こうした実情に合わせて金額基準をスライドさせることで、建設業者が適切な許可区分で営業を続けられるようにするための措置なのです

3. おさらい:「一般建設業」と「特定建設業」の違いとは?

ここで改めて、建設業許可の「一般」と「特定」の違いを整理しておきましょう。これは建設業経営の基本にして、最も重要なポイントです。

誰のための区分?

この区分は、「発注者から直接工事を請け負う(元請)業者」に関係するものです。 下請として工事に入る場合(二次下請など)は、工事金額がいくら大きくても「一般建設業許可」で問題ありません(※金額制限はありません)。

特定建設業許可が必要なケース

以下の2つの条件を両方とも満たす場合に必要になります

  1. 発注者から直接請け負う(元請)工事であること
  2. その工事の一部を下請業者に発注し、その下請代金の総額5,000万円(建築一式は8,000万円)以上になること

逆に言えば、元請であっても「全て自社で施工する(下請を使わない)」場合や、「下請には出すが、その総額が5,000万円未満」であれば、一般建設業許可で対応可能です

特定建設業制度は、下請負人の保護(支払いの適正化など)や、大規模工事の施工体制の適正化を目的としているため、一般許可よりも厳しい財産要件や技術者要件が課されています

4. ここが重要!「5,000万円(8,000万円)」判定の注意点

今回の改正で「5,000万円までOKになった!」と安心するのはまだ早いです。 実務上、この金額判定で誤解が生じやすく、知らず知らずのうちに建設業法違反(無許可営業や区分違反)になってしまうケースがあります。

東京都の「建設業許可の手引」等の公式見解に基づき、絶対に押さえておくべき注意点を解説します。

① 消費税は含む?含まない?

答え:消費税を含んだ金額(税込)で判断します。

建設業法上の許可要件となる金額(500万円の軽微な工事、特定許可の5,000万円など)は、すべて「税込」です。

例えば、下請発注額が「税抜 4,600万円」だったとします。 「5,000万円未満だから一般許可で大丈夫」と思いきや、税込(10%)にすると5,060万円となり、特定建設業許可が必要になります。 見積書や契約書の金額が税抜表記であっても、許可の判定は必ず税込で行ってください。このミスは非常に多いです。

② 「1社」ではなく「合計」である点に注意

「A社への発注は3,000万円、B社へは2,500万円だから、どちらも5,000万円以下。だから一般許可でOK」 これは間違いです。

基準となるのは、「その工事に関して締結した下請契約の総額」です。 上記の例なら、3,000万円 + 2,500万円 = 5,500万円 となり、5,000万円を超えているため、元請には特定建設業許可が必要です。 1社ごとの金額ではない点に十分ご注意ください。

③ 元請からの「材料支給」がある場合の罠

これは見落としがちなポイントですが、注文者(元請である自社にとっての発注者)から材料の提供(支給)を受けて工事を行う場合です。

建設業許可の「要・不要(500万円の壁)」の判定においては、支給材料の市場価格と運送費を請負代金に加算して判断するというルールがあります。 一方で、今回の「特定許可が必要かどうか(5,000万円の壁)」の判定、つまり下請代金の総額を計算する際には、元請負人が下請負人に提供する材料等の価格は含まれません

少しややこしいですが、以下のように整理してください。

  • 許可が必要かどうかの判定(500万円基準):材料費を含めて判断する。
  • 特定許可が必要かどうかの判定(5,000万円基準):下請に出す金額に、支給材料費は含めない

5. 同時に改正!監理技術者の配置要件も見逃すな

今回(令和7年2月)の改正では、お金の話だけでなく、現場に配置する技術者(監理技術者・主任技術者)のルールも変更されています

元請として工事を行い、下請代金の総額が5,000万円(建築一式8,000万円)以上となる場合、特定建設業許可が必要になるのと同時に、現場には「監理技術者」を設置しなければなりません。

さらに、重要な工事については、この監理技術者(または主任技術者)を「専任(現場に常駐)」させなければならないルールがあります。この「専任が必要となる請負金額」の下限も引き上げられました。

【専任の監理技術者等が必要な請負代金額】

【建築一式工事以外】

  • 改正前:4,000万円以上
  • 改正後:4,500万円以上

【建築一式工事】

  • 改正前:8,000万円以上
  • 改正後:9,000万円以上

つまり、元請工事の請負金額が4,500万円(建築一式は9,000万円)未満であれば、配置技術者は他の現場と兼任が可能(非専任でOK)ということになります。 技術者不足に悩む建設会社様にとっては、少し配置の柔軟性が増す改正と言えます。

6. 「特定建設業」を取るべきか?3つのハードルをチェック

今回の改正で「一般許可で粘れる範囲」は広がりましたが、それでも公共工事の入札ランクアップや、大型民間工事の受注を目指すなら、いずれは「特定建設業許可」の取得が必要です。

しかし、特定許可は一般許可に比べてハードルが格段に上がります。特に多摩地域の中小建設業者様が直面する「3つの壁」について解説します。

① 財産的基礎(おカネの壁)

一般許可は「500万円以上の残高証明書」があれば取れますが、特定許可はそうはいきません。 以下のすべてを満たす必要があります(直前の決算書で判断されます)

  1. 資本金が2,000万円以上であること
  2. 自己資本が4,000万円以上であること
  3. 欠損の額が資本金の20%を超えていないこと
  4. 流動比率が75%以上であること

特に「自己資本4,000万円」は大きな壁です。これは一時的に銀行口座にお金を入れただけではクリアできず、会社の純資産として積み上げておく必要があります。増資などの対策が必要になるケースも多いです。

② 専任技術者(ヒトの壁)

特定許可の専任技術者(営業所ごとに常勤する技術者)は、原則として「1級国家資格者(1級施工管理技士、1級建築士など)」でなければなりません。

一般許可のように「実務経験10年」だけでは特定許可の専技になれない業種(指定建設業:土木、建築、電気、管、鋼構造物、舗装、造園)があります。 指定建設業以外の業種であれば、「一般の専技要件 + 2年以上の指導監督的実務経験(元請で4,500万円以上の工事を管理した経験 ※改正前の基準額は経過措置等要確認)」でも認められますが、この証明は非常に難易度が高いです

③ 施工管理体制(実務の壁)

特定建設業者は、下請負人の保護や指導を行う義務を負います。 施工体制台帳の作成や、下請業者への支払期日の厳守(引渡し申出から50日以内など)など、コンプライアンス体制が厳しく問われます

7. まとめ:許可区分の見直しは専門家にご相談を

令和7年2月の改正により、特定建設業許可が必要な下請金額ラインは「5,000万円(建築一式8,000万円)」に引き上げられました。 これにより、「あと少しで特定が必要だったが、一般のままで受注できるようになった」という業者様もいらっしゃるでしょう。

しかし、建設業のルールは複雑です。 「税込・税抜の計算ミス」や「技術者の専任要件の勘違い」は、営業停止処分などの重いペナルティに直結しかねません。

「うちは今回の改正でどうなるの?」 「将来的に特定を取りたいが、今から何を準備すればいい?」

そのようなお悩みをお持ちの多摩地域(多摩市、日野市、八王子市、立川市、府中市ほか)の建設業者様は、ぜひ一度、おくだいら行政書士事務所にご相談ください。

当事務所は、元公務員(許認可審査担当)であり、元建設会社役員(電気工事会社)でもある代表行政書士が、役所の審査目線と現場の経営目線の両方から、貴社に最適な許可戦略をご提案します。

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