「公共工事の入札に参加して、経営を安定させたい」

「今のランクでは希望する規模の工事が取れない。もっとランクを上げたい」

建設業を営む社長様であれば、一度はそう考えたことがあるのではないでしょうか。

民間工事は景気に左右されやすい側面がありますが、公共工事は比較的安定しており、社会的信用の向上にもつながります。また、大規模な災害復旧工事などで地域社会に貢献できるのも、公共工事の大きなやりがいの一つです。

しかし、公共工事の入札に参加するためには、単に建設業許可を持っているだけでは足りません。「経営事項審査(経審)」を受け、自社の施工能力や経営状況を「点数(P点)」として評価してもらう必要があります。

この「P点」こそが、御社の入札ランク(格付け)を決める絶対的な指標です。

厳しい言い方をすれば、「P点が足りなければ、土俵に上がることすらできない」のが公共工事の世界です。

では、どうすればこの点数を上げることができるのでしょうか?

売上を倍にする? 利益を急増させる?

もちろんそれも正攻法ですが、一朝一夕にはいきません。

実は、経審の仕組みを正しく理解し、戦略的に対策を講じることで、今の経営体力のままでも点数を底上げできる可能性があります。

本記事では、建設業専門の行政書士の視点から、経審の点数を上げるための具体的な戦略と、「評点シミュレーション」の重要性について徹底解説します。

1. 敵を知る:経審の「総合評点値(P点)」の仕組み

まずは、点数がどのように決まるのか、その計算式を見てみましょう。

少し複雑に見えますが、ここを理解することがランクアップへの第一歩です。

売上だけじゃない!点数を決める5つの要素

経審の総合評点値(P)は、以下の計算式で算出されます。

$$P = 0.25X1 + 0.15X2 + 0.2Y + 0.25Z + 0.15W$$

  • X1(完成工事高): 工事の売上高
  • X2(自己資本額・利益額): 会社の規模や儲け
  • Y(経営状況): 財務諸表の健全性(負債抵抗力や収益性など)
  • Z(技術力): 技術職員の数や元請工事の割合
  • W(社会性等): 社会保険、建退共、防災協定、法令遵守など

狙い目は「経営者の意思」で変えられる項目

この式を見て、何かに気づきませんか?

売上(X1)のウェイトは25%です。つまり、残りの75%は売上以外の要素で決まります。

特に注目すべきは、「Z(技術力)」の25%と、「W(社会性等)」の15%です。

売上や利益(X・Y)を短期間で劇的に改善するのは、経営環境や景気に左右されるため困難です。しかし、「Z」と「W」は、経営者の意思決定ひとつで、確実に点数を積み上げることができる項目なのです。

ここからは、即効性が高く、かつ多くの建設業者様が見落としがちな「W点」と「Z点」の攻略法に絞って解説します。

2. 実は宝の山!「W点(社会性等)」を徹底的に拾う

W点は「社会性等」という名称の通り、その企業がどれだけ社会的に信頼できるか、建設業界へ貢献しているかを評価する項目です。

ここは「加点方式」が多いため、要件を満たしさえすれば確実に点数が上がります。逆に言えば、ここを取りこぼすのは非常にもったいないのです。

社会保険加入は「加点」ではなく「スタートライン」

かつては社会保険に加入していると加点されましたが、現在は制度が厳格化され、「未加入=大幅減点」という扱いになっています。

雇用保険、健康保険、厚生年金保険の3つすべてに加入していなければ、他の項目でどんなに努力してもランクアップは望めません。

もし未加入の状態であれば、まずは適正な加入手続きを行うことが、経審対策の「0歩目」となります。

「建退共」への加入はコスパの良い投資

意外と未加入の会社が多いのが、「建退共(建設業退職金共済)」です。

これは、現場で働く建設労働者のための退職金制度です。これに加入し、適切に履行しているだけで加点対象となります。

「手続きが面倒そうだ」「掛金がかかる」と敬遠されることがありますが、W点の中では比較的導入しやすく、評価へのインパクトも大きい項目です。福利厚生の充実によって従業員の定着率向上にもつながり、さらに経審の点数も上がる。まさに一石二鳥の施策と言えます。

防災協定・法定外労災・CPD単位も見逃すな

他にも、W点には見逃せない項目がたくさんあります。

  • 防災協定の締結: 自治体と防災協定を結んでいると加点されます。所属している建設業協会などが協定を結んでいれば対象になる場合もあります。
  • 法定外労災への加入: 政府の労災保険の上乗せ補償に加入していること。現場の安全安心を守る姿勢が評価されます。
  • CPD(継続教育)単位の取得: 技術者が講習等を受けてスキルアップしているか。これはZ点(技術力)の補強にもなります。

これらの項目は、一つひとつは小さな加点に見えるかもしれません。しかし、ちりも積もれば山となります。

「うちは関係ない」と思い込まず、「取れる点数はすべて取る」という姿勢で一つひとつチェックしていくことが重要です。

3. 「Z点(技術力)」を最大化する資格戦略

Z点は主に「技術職員数」と「元請完成工事高」で構成されます。

特に技術職員の点数は重要です。

1級資格者の圧倒的な重み

  • 1級資格者(1級建築施工管理技士など):5点(監理技術者講習受講で6点
  • 2級資格者:2点

見ての通り、1級資格者の評価は圧倒的です。

社員に資格取得を奨励し、1級資格者を増やすことは、長期的な経審対策の王道です。

パズルのように技術者を「最適配置」する重要性

しかし、今いる社員ですぐにできる対策もあります。

それは、「一人の技術者が持つ複数の資格を無駄にしない」ことと、「申請する業種に最適な配置をする」ことです。

一人の技術者が複数の業種の資格を持っている場合、どの業種で申請するかによって全体の点数が変わるケースがあります(※ただし、1人は原則2業種までしか申請できない制限があります)。

自社が「土木」でランクを上げたいのか、「舗装」で上げたいのか。戦略に合わせて技術者をパズルのように最適配置することで、採用を増やさずに点数を最大化できる可能性があります。

4. 財務状況(Y点)の改善は「見せ方」も重要

Y点(経営状況分析)は、8つの財務指標から算出されます。

「負債が多すぎないか」「利益は出ているか」「資金繰りはスムーズか」といった観点です。

「節税」と「経審アップ」はトレードオフの関係

税理士さんは「節税(税金を安くする)」ことのプロですが、経審対策は時に「税金を払ってでも利益を出して、自己資本を厚くする」ことが求められる場面があります。

「節税」と「経審の点数アップ」はトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)の関係になりがちです。

過度な節税によって利益を圧縮しすぎると、Y点が下がり、結果としてランクが上がらない事態になりかねません。

決算前から始まる経審対策

決算書が固まってからでは、Y点の対策は手遅れです。

公共工事を狙うのであれば、決算を迎える前に「来期の経審で何点を目指すか」を決め、それに合わせた決算(減価償却費の調整、資産購入のタイミング、不良債権の処理など)を組む必要があります。

これには、建設業に詳しい行政書士と税理士の連携が不可欠です。

5. なぜ「評点シミュレーション」が必要なのか?

ここまで、点数を上げるための要素を解説してきました。

しかし、これらを頭の中で計算し、「これをやれば〇点上がるな」と正確に予測するのは至難の業です。

経審の計算式は複雑で、ある項目を上げると別の係数が作用して、思ったほど点数が伸びないということも起こり得ます。

現状把握なしの申請は「地図のない航海」

そこで重要になるのが、「評点シミュレーション」です。

当事務所では、決算変更届や経審の申請を行う前に、必ず専用ソフトを用いた詳細なシミュレーションを行うことを推奨しています。

  • 「今の決算内容で申請すると、P点は何点になるのか?」
  • 「もし建退共に入っていたら、何点上がっていたのか?」
  • 「技術者の配置を変えたら、希望業種のランクは上がるか?」
  • 「来期の決算で借入金をこれくらい減らせば、Y点はどう変わるか?」

これらを申請前に数字で見える化します。

現状を知らずに申請するのは、地図を持たずに航海に出るようなものです。

シミュレーションで得られる具体的な経営判断

シミュレーションを行うことで、以下のような具体的な経営判断が可能になります。

  • 「今回は現状維持で申請しよう」
  • 「来期に向けて、今からこの資格を取らせよう」
  • 「ランクアップのために、この設備投資は来期に見送ろう」

「あと3点あればランクが上がるのに!」というギリギリの状況で、確実にその3点を埋めるための最短ルートを探すには、事前のシミュレーションが必須です。

6. まとめ:経審は「申請」ではなく「経営戦略」です

経営事項審査は、単なる事務手続きではありません。

自社の強みを数値化し、ライバルとの競争に勝つための**「経営戦略そのもの」**です。

「点数が低くて入札に参加できない…」と嘆く前に、まずは現状を正確に把握し、どこに伸びしろがあるかを探してみませんか?

多くの建設業者様が、シミュレーションを通じて「えっ、ここを直すだけで点数が上がるの?」という気づきを得ています。

当事務所では、単なる書類作成代行にとどまらず、「御社のP点を最大化するための戦略パートナー」としてサポートいたします。

特に、複雑なシミュレーションや、他士業(税理士・社労士)と連携した総合的なアドバイスを得意としています。

  • 今のランクに納得がいっていない方
  • これから公共工事への本格参入を考えている方
  • 今の行政書士からは書類作成以外の提案がないと感じている方

ぜひ一度、当事務所の「評点シミュレーション」をご利用ください。

数字に基づいた具体的な戦略で、御社の公共工事受注を強力にバックアップいたします。

まずは、お気軽にお問い合わせください。御社の「強み」を最大限に引き出す方法を、一緒に考えましょう。