「元請けから許可取得を要請されたが、個人事業主のままでも可能なのか」 「許可を取るためには、まず法人化(株式会社化)しなければならないのか」

建設業許可の相談現場において、半数近い方がこのような誤解をされています。 結論から申し上げます。

建設業許可は、個人事業主(一人親方)のままでも問題なく取得可能です。 無理に法人化を急ぐ必要はありません。

実務上、東京都内でも多くの事業者が個人事業主として許可を取得し、大規模工事を請け負っています。現代の建設業界において、信用の担保となるのは「法人格の有無」ではなく、「許可証の有無」そのものです。

本稿では、あえて「個人事業主」として許可を取得する実務上のメリットと、将来的に法人成りする際に発生する「許可番号の失効リスク」について、専門家の視点で解説します。

1. 審査基準における「個人」と「法人」の平等性

まず、前提として理解いただきたいのは、「個人だからといって審査が厳しくなることはない」という事実です。 建設業許可の3大要件(ヒト・モノ・カネ)は、法人・個人を問わず同一の基準で審査されます。

  1. 経営業務の管理責任者(ヒト)
    • 個人事業主として5年以上の確定申告実績があるか。
  2. 専任技術者(ヒト)
    • 国家資格、または10年以上の実務経験があるか。
  3. 財産的基礎(カネ)
    • 500万円以上の預金残高証明書等を用意できるか。

これらを満たせば、屋号(〇〇工業等)のまま「東京都知事許可」が交付されます。 むしろ、申請実務においては、登記簿謄本や定款が不要であり、役員全員の身分証明書を集める手間もないため、個人事業主の方が申請工数が少なく済むケースも多々あります。

2. 戦略的に「個人」で取得すべき3つの理由

「将来的には法人化したいが、時期は未定」という場合、「まずは個人のまま、速やかに許可を取得すること」を推奨しています。その実務的な理由は以下の3点です。

理由①:機会損失(チャンスロス)の回避

法人設立には、定款認証や登記申請で最低でも約1ヶ月の期間とがかかります。そこから許可申請を行うと、着手から許可通知までトータルで2〜3ヶ月を要することになります。

その間に「500万円以上の案件」の打診があった場合、許可がなければ辞退せざるを得ません。 まずは手軽な個人申請で許可を取得し、受注機会を確保して売上を立てること。これがキャッシュフロー経営の観点からも合理的です。

理由②:経営経験(5年)の証明が容易

許可取得には「過去の経営経験」の証明が必須です。 個人事業主の場合、ご自身の「確定申告書(控)」がそのまま公的な証明資料となります。

一方、新設法人の場合、法人としての実績はゼロです。結局、代表者個人の過去の確定申告書を添付して、「個人時代の経験」を証明することになります。審査構造が複雑になるため、既存の個人事業主として申請する方が、立証資料がシンプルで済みます。

3. 実務上の最大リスク:「法人成り」による許可の消滅

ただし、個人で許可を取得する場合、必ず認識しておかなければならない重大な注意点があります。 それは、将来法人化(法人成り)する際の手続きとリスクです。

法律上、個人事業主の「あなた」と、法人の「株式会社あなた」は、別人格として扱われます。 したがって、個人事業を法人化する場合、許可は自動的に引き継がれません。原則として以下の手続きが必要です。

  1. 個人の許可を「廃業届」で返納する。
  2. 法人として、新規で許可を「取り直す」。

リスク①:許可番号が変わる

新規申請となるため、許可番号(第〇〇号)が変わります。 名刺、封筒、ヘルメット、看板など、許可番号を記載している全ての備品を作り直すコストが発生します。また、取引先へ「番号が変わった」旨の周知も必要となります。

リスク②:無許可期間(空白期間)の発生

個人の廃業から法人の許可が下りるまでの間(約30日〜60日)、「許可を持たない空白期間」が発生します。 この期間中は、500万円以上の工事を請け負うことができません。工期がまたがる契約もできないため、実務上の大きな制約となります。

補足:「認可承継(にんかしょうけい)」制度について

令和2年の改正建設業法により、空白期間なしで地位を引き継ぐ「認可承継」制度が創設されました。 しかし、この制度は「事前の綿密な審査」が必要であり、通常の新規申請よりも準備期間や審査期間が長期化する傾向にあります。 実務上は、コストとスピードを比較した結果、承継制度を使わずに「新規取り直し」を選択するケースも依然として多いのが現状です。

4. 結論:法人化の「時期」で判断する

以上のメリットとリスクを踏まえ、おくだいら行政書士事務所では以下の基準で判断を推奨しています。

ケースA:半年以内に法人化する予定がある

→ 「法人化してから許可を取る」のが正解です。 今個人で取得しても、すぐに取り直し(手数料9万円+報酬の二重払い)となり、経済的合理性がありません。まずは法人設立を優先すべきです。

ケースB:法人化は1年以上先、または未定

→ 「今すぐ個人で許可を取る」のが正解です。 将来、取り直しのコストが発生したとしても、それまでの期間に「500万円以上の工事」を受注できる利益の方が、コストを遥かに上回ります。 「許可がない」ことによる機会損失を最小限に抑えることが、経営判断として優先されます。

5. 社会保険の加入義務に関する相違

最後に、コスト面に直結する「社会保険」の取り扱いについて補足します。 建設業許可では社会保険への適切な加入が義務付けられていますが、個人と法人では適用ルールが異なります。

  • 法人(株式会社等) → 従業員数に関わらず、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が強制されます。法定福利費の負担増を考慮する必要があります。
  • 個人事業主従業員が5人未満であれば、「国民健康保険」と「国民年金」の適用事業所で適法です。

つまり、少人数の個人事業主であれば、現在の国保・国民年金のままで許可申請が可能です。固定費の増加を抑えつつ許可を取得できる点は、個人申請の大きなメリットと言えます。

まとめ:事業計画に基づいた最適な選択を

建設業許可は、法人だけのものではありません。 個人事業主であっても、許可を取得することで「請負金額の上限撤廃」「社会的信用の向上」「融資枠の拡大」といった強力な武器を手に入れることができます。

「まずは個人で実績を作り、然るべきタイミングで法人化する」 「最初から法人化して、体制を整える」

どちらが正解かは、お客様の資金状況や受注見込みによって異なります。 おくだいら行政書士事務所では、単なる書類作成代行だけでなく、将来の法人成りを見据えた「最もコストパフォーマンスの高い許可取得戦略」をご提案いたします。